菅平高原観光協会

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INTERVIEW

勝つためのマネジメント
vol. 1 帝京大学ラグビー部監督 岩出雅之(前編)

July.5.2019

菅平合宿で年間目標を見つめ直す

帝京大学ラグビー部監督として、第46回(2009年度)から第54回(2017年度)まで全国大学ラグビーフットボール選手権大会9連覇という偉業を達成した岩出雅之監督。第55回大会では残念ながら準決勝で敗退してしまったが、科学に裏打ちされた指導と、学生自らが考えて行動する姿勢の教育は根付いており、今年度の第56回では巻き返しを図る。インタビュー第1回では、菅平で夏合宿を続ける意義について話を聞いた。

写真・文/中島良平

クラブハウスにはトロフィーや賞状が並ぶ。

冷たい水と澄んだ空気に恵まれた高原地帯

日本体育大学に入学してラグビー部に入部し、全国の学生から企業のラグビー部までが合宿を張る菅平に初めて来たのが、大学1年生のころだった。岩出監督は、初めての菅平の印象が強く残っているという。

「まず感激したのは、お水の冷たさと美味しさでしたね。日体大に入って東京に住み始めたら、当時はとにかく東京の水がまずかった。それと、菅平は本当に涼しかった。自然の澄んだ空気は気持ちよかったですし、当時は東京も今ほど暑くはありませんでしたが、菅平に来るとひんやりするぐらいで過ごしやすかったですね」

帝京大学ラグビー部を率いて9連覇の記録を打ち立てた岩出監督は、科学的なアプローチで選手指導に取り組み、スタッフ構成、トレーニング設備やプログラムも含む練習環境、生活習慣などを見直すことで、チーム強化に成功した。その原点の一つに、菅平の経験があるようだ。

整える場所としての菅平

4月から、厳密には試験なども落ち着いた3月から、ラグビー部の新しい年度が始まる。新しく部に加わる新入生であれば大学生活や新しい環境に適応することがまず大きな課題だ。2年生以上の学生もやはり、年度が変わると選択授業なども変化し、新しいルーティンがスタートする。そして、4月末からの連休を経て5月がくる。岩出監督はこの時期に注意を払う。

「緊張感の疲れが精神的な壊れの元となって発生する、5月病にも注意が必要です。予防するためにはきちんと疲労を回復することが必要で、帝京ラグビー部では、ゴールデンウィークは丸ごと休ませています。そして5月から再び練習を始め、春に設定した目標だったり、そこで仕上がっていない部分だったりを確かめながら、仕上げを目指すのが夏の合宿です」

冒頭の岩出監督の「菅平は本当に涼しかった」という言葉が現在の菅平合宿の意義にもリンクする。

「涼しい環境は安眠につながります。昔はピークまで疲れさせるような練習を毎日続けるのも当たり前でしたが、実際には、疲れすぎると簡単には疲労回復ができません。肉体が疲れすぎてしまうとなかなか寝付けませんから。帝京では練習することの『攻めのプラス』に加えて、練習しないことの『守りのプラス』もあると考えています。鍛えた後にはきちんと休ませて心や体を整える。そうすると、練習してきた内容が定着して、体を壊さずに成果を試合でも活かせるようになる。そのサイクルを考えると、めちゃくちゃハードなことをするのは禁物です。夏の猛暑の中での菅平合宿は、その機構や施設、宿舎での時間がまさに『攻め』と『守り』のプラス効果にフィットしています」

夏の合宿は2週間。高校ラグビー部の合宿が終わる8月のお盆明けから菅平入りし、授業がある期間は1日に午後の1回しかできない全体練習を、午前との2回行う。

「2週間部員たちが集まって同じ場所に生活していると、だらしない過ごし方をする学生が見えてきますから、自分のリズムを整え、自分をコントロールさせるきっかけになります。2週間菅平にいると、ある意味でスケジュールが単調な分、時間の過ごし方に集中することができますから。そこで三食をきちんととり、きちっとした生活のリズムを持つようにする。自分が何を目指しているか、それが曖昧だと行動もいい加減になってきますから、目標を見直して自分を整え直す機会になります」

合宿でのトレーニング内容は、冬の全国大学ラグビーフットボール選手権大会からの逆算をベースに決定するので、毎年変わってくる。どこを強化すべきかをきちんと見極め、足りない部分を補い、秋からの練習に備える。

「菅平では練習が終わったらきちんと食事をして、夜はミーティングをしないで体をケアし、団欒でストレスを解消して、翌日に備えて眠る。1日を笑いで終えられれば、すっきりとよく眠れると考えています。そして9月に入ると、菅平で覚えたことを夏の暑さに順応させるために東京に戻って練習を開始します。血液の代謝が変わって順応するのに2週間はかかりますから、そこで宿舎でのリフレッシュはとても大切です」

クラブハウスにはラグビー部専用のトレーニングルームを設置。

ワールドカップ開催という特別な年に

今年は日本でラグビーワールドカップ2019が開催される。そこで関東大学リーグの公式対抗戦のスケジュールが変則となり、開催地や期間の調整を迫られた。岩出監督は、これまでに行われたことのない「菅平での公式戦開催」をとても楽しみにしている。協会と連携し、各大学の監督が協議を重ねた結果、8月31日と9月1日には16大学が菅平に集まり、8試合が行われることになった。

「どのチームも菅平にお世話になってきて、菅平に対して多くの指導者や選手が特別な思いを持っていると思います。日本でワールドカップが開催される特別な年に、シーズンが菅平でスタートしたらみんなの記憶に残りますよね。お互いが熱を感じあい、菅平の人たちも活気付いてワクワク感が生まれると思うんです。ワクワク感というのはエネルギーの元ですから、そこから新しいクリエイティビティが生まれるはずです。このイベントが成功すれば来年以降にもつながりますし、未来の日本ラグビーの発展につながるための仕掛けを菅平でイノベーションできたら素晴らしいですね」

次回のインタビューでは、10連覇を逃した今年1月の全国大会。そこからの立て直しをどのように目指しているのか。そもそも岩出監督が科学的なアプローチになぜ目を向けるようになったのか。指導の根本にあるコンセプトについてお届けしたい。

岩出雅之(いわでまさゆき)
帝京大学ラグビー部監督
帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科教授
1958年、和歌山県生まれ。日本体育大学ラグビー部でフランカーとして活躍し、1978年全国大学ラグビー選手権大会で同大学2度目の優勝。4年次には主将を務め、1980年卒業。教員として勤務した滋賀県八幡工業高校でラグビー部顧問として7年連続花園に出場。高校ラグビー日本代表監督を務め、1996年より帝京大学ラグビー部監督に就任。同大学では経済学部講師などを歴任後、2011年4月より医療技術学部スポーツ医療学科、スポーツ医科学センター教授就任。