菅平高原観光協会

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INTERVIEW

中野ジェームズ修一
Mind Control Myself vol. 2
「褒める」の危険性

August.6.2019

日本のパーソナルトレーナーのパイオニア、中野ジェームズ修一が語る「こころ」のお話。第2回は「褒める」について。どんな人間であっても褒められたら、嬉しい。その喜びが厳しさを乗り越える原動力にもなる。だからこそ、闇雲な「褒める」が行動を制限してしまう危険をはらんでいる。

取材・文/寺野典子

他人と過去は変えられない

「なぜ、課題、宿題をやっていないのか」
パーソナルトレーナーとして、日本で仕事を始めた僕は、クライアントに対して、そんな想いを抱くことがありました。

「ダイエットしたい」「ゴルフのスコアを上げたい」「腰痛を改善したい」「試合に勝ちたい」。クライアントがトレーニングを受ける理由(動因)は様々だ。それに対して、手段(誘因)を提示するのがパーソナルトレーナーの仕事。このふたつによってモチベーションが成立するが、こうなりたいという動因が明確でも、パーソナルトレーナーが提案した手段を実施できない人間も存在します。そうなれば、当然、トレーニングの成果は上がらず、クライアントの希望は叶いません。

「やるべきことをやらないと、変われませんよ。結果がでません」

まだ新米パーソナルトレーナーだった僕は、そういうクライアントに対して、思わずキツイ言葉を発してしまうこともありました。結果を出せるという自信があったからこそ、大きな落胆がいら立ちへと変わるようにもなり、気がつくと、「やってください」という命令口調になり、ときには叱るような態度をとってもいました。成果が上がらなければパーソナルトレーナーとしての自分自身の評価も下がってしまうという不安があったのかもしれませんし、今思えば、僕自身が思い上がっていたのかもしれません。

僕がアメリカでパーソナルトレーナーという仕事に衝撃を受けたのは、約束した期間内にクライアントの望む通りに身体を変える、結果を出す仕事でした。共にトレーニングをする時間以外にも、食事などの生活改善の提案もありました。けれど、トレーナーの指示に従うことで、結果が生まれました。そういう経験があったからこそ、パーソナルトレーナーとして、クライアントを変える仕事に就きたいと考えたのです。

しかし、現実は思うようにはいきません。

クライアントの希望を叶えたい。ならば、厳しい言葉も必要なんだと考えていました。けれど、厳しくすればするほど、クライアントとの関係は気まずくなり、結果的にトレーニングを止めてしまうクライアントもいました。

このままじゃいけないと考えた僕は、クライアントの心を知るために心理学を学び、同時に自身の指導法へも疑問を持ち、コーチングを学ぶために、ワークショップや勉強会などに参加することにしました。

そんななかで出会ったのが、行動変容論を軸とした健康心理学会でした。そこで「他人と過去は変えられない」と言われたとき、目の覚めるような気持ちになりました。僕は必死で変えられない他人を変えようとしていた。だからこそ、衝突し、うまくいかなかったと気づかされました。

条件つきで褒めるな

身体と脳をどのようにつなげて考えるかが、中野氏のメソッドの根底にある。

健康心理学会には、看護師、栄養士、理学療法士など医療関係者や心理カウンセラーの方が多く、そういう異業種の方々のワークショップなどでの学びも大きな財産となりました。

大切なのは、クライアント自身が意思決定すること。クライアント中心療法です。

運動嫌いなクライアントに対して、どうアプローチすれば運動しようとしてくれるのか? こちらからの押し付けになってはいないか? などと気を配るようになりました。

そのなかのひとつが、「変わった」ことを認知させる作業です。小さなものであってもいいので、トレーニングの成果を実感してもらうことで、次の行動へ移れます。しかし、なかには、謙虚な性格が災いし、なかなか成果を実感し、認知しづらい人もいます。これは一般の方だけでなく、アスリートにも存在するひとつのタイプです。

「自分はいつも失敗する」「私は太っている」

そういう認知をしてしまうと、どんなにトレーニングをしても、ダイエットをしても、一度認知したことを変えることができない。ある種のトラウマのように染みついてしまうことがあります。

「そうじゃない。あなたは10キロもやせたでしょう」

周囲が何度そう言っても、「太っている」という認知が消えない。ここで重要なのは、本人が認知を修正する、消去することです。僕らにできるのは、認知を改める機会を作ることだけです。自信を生み出すためには成功体験が効果的です。小さい成功体験を積み重ねることで、自己効力感が高まり、認知が書き換えられていくのです。

ときには、実際はできていなくても「今日は良かったよ」と声をかけて褒めることもあります。

しかし、褒めるというのは非常に難しいものです。

褒める行為には、条件付きと無条件があります。条件付きというのは、「●●●●ができたからすごい」というもの。たとえば、子どもにテストで「90点獲れたからすごいね」と褒めたとします。その行為は間違いではないのですが、それを繰り返し続けると、子どもは不安を抱くようになります。「90点獲れなかったらどうしよう」と。そして、結果的にテストから逃げてしまう。条件を付けることで、不安が明確化されてしまい、その条件が達成できなかったら、否定されるんじゃないかという考えを持つ可能性があるんです。

条件というのは、目標の明確化でもあります。ですから、条件付きで褒めることも必要でしょう。しかし、そこを強調しすぎるとかえって、不安が生じるのです。

「どんな点だったとしても、君は良く頑張ったと思うよ」と無条件に褒めたうえで、「それにしても90点なんてすばらしいね」と伝えてあげる。そういう細かな配慮が「褒める」には必要なのです。

本人の認知の更新と自己効力感の関係を強調する。

中野ジェームズ修一
(なかの・じぇーむず・しゅういち)

米国スポーツ医学会認定運動生理学士
渡米をきっかけにパーソナルトレーナーの存在を知り、勉強を始める。帰国後、日本ではほとんど認知されていかなったパーソナルトレーナーとして、活動の場を広げたパイオニア。フィジカルトレーニングの現場で、心理学や精神分析学をも活かす仕事は、多くのアスリートから絶大な信頼を集めている。主な著書は『下半身に筋肉をつけると「太らない」「疲れない」』(大和書房)、『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ』(徳間書店)など。累計売上は100万部を突破。東京神楽坂にある会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」最高技術責任者。

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