菅平高原観光協会

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INTERVIEW

勝つためのマネジメント vol. 2
パナソニック女子陸上競技部監督 安養寺俊隆(前編)

September.4.2019

選手の自主的な動きがチームを強くする

毎年11月末に開催される全日本実業団女子駅伝(クイーンズ駅伝)。パナソニックが2017年、2018年と2年連続で優勝を遂げ、今年も3連覇に向けて抜かりなくトレーニングを進めている。まだチームの平均年齢も21歳ほどと若いチームを率いる安養寺俊隆監督は、選手個人の自主性を重視することで結果を出している。そして、「食べて勝つ!」を活動方針に掲げ、健全な食事によってスポーツに適したカラダづくりを行うことにも成功した。全3回のインタビュー第1回では、菅平で行う合宿のマネジメントについて話を聞いた。

写真・文/中島良平

選手が走る間、監督も走っている。

菅平の澄んだ朝はランニングから始まる

パナソニックの女子陸上部が菅平にやってくるのは春と秋。ある日のプログラムをたどってみよう。朝は6時半にホテル前に集合し、全員で準備体操をしたのち、各々が走る距離やコースを自分で決めて走り始める。約1時間。足を怪我していて走れない選手は屋内でトレーナーの指導のもと、体幹トレーニングなどに励む。その間、安養寺監督も黙々と走る。朝のスタートは合同走を入れる時もあるが基本的にこのようなメニューだと説明する。

「菅平のように静かな環境に来たら、自分に集中できて、誘惑も少ないのでトレーニングにも集中できます。自制心が自然と生まれてきます。自分を律する自律と、自分の力で立つ自立。その両方の能力を得られる場が菅平合宿だと思っています。自分自身をコントロールして自分がこれをやると決めたら責任を持って取り組む。そういう選手にならないと本当の強さは身につかないんだ、ということは常々選手たちに話しています」

監督とコーチ、トレーナーが選手たちを見るが、トレーニング内容の6〜7割は全体練習の場などで指導者が指示を出し、残りは自主性に任せる。その方針は合宿先ではもちろんのこと、日常的に徹底している。自分でやりながら、自分の頭と体で覚えていくことが強くなるために何よりも大切だからだ。そのために、走った距離や行ったトレーニング、その日の気づきなどについて、丁寧に日誌をつけさせている。

「きちんと継続的に練習をやってきている子は、だいたい毎月600km以上は走っています。強くなるための一つの目安の距離が600kmです。しかし、今うちには3人エースがいますが、彼女たちは多い月には1000km以上走っています。私が走れって言うわけではないんですよ。早起きして朝練習の集合前に30分走って距離を稼いできたり、夕方の全体練習後にしばらく走ってきたり、自主性です。コツコツと自発的に走ることによって、基礎持久力と基礎体力がついてきて、長く走れる体と気持ちができあがってくるわけです」

長距離ランナーは“血で走る”

コンスタントに月1000kmのランニングを続けて実力を付けた森田香織。
選手との風通しのよい関係は強いチームに欠かせない。

2017年の7月終わり。部員の森田香織が監督に「私、来月1000kmを目指してみます」と言ってきた。どうにか距離をこなそうとして故障だけはしないように、ケアを怠らないように伝えた上でゴーサインを出した。すると堀優花も、渡邊菜々美も、負けたくないという思いで1000kmを目指し、3人ともが8月に1000kmを達成した。そして秋になると、台風のような悪天候で駅伝が行われたが、誰も崩れることなく予選で2位になり、クイーンズ駅伝で初優勝を果たす。まだ平均年齢20歳ほどの若いチームが、ひと夏で安定感を得て大きく成長する様子を目の当たりにした。

「やっぱり自律心と自立心の両方が生まれたんだと思います。やらされているトレーニングではなく、自分が本気で強くなりたいっていう意識から取り組んだのでしょう。気持ちが入っていない練習をやっても力にはなりません。京都の大徳寺大仙院に尾関宗園さんという閑栖(かんせい=隠居した禅僧)がいらっしゃるんですが、その方が法話でいう『奮発心』というのが大事だと選手たちにもよく話しています。結局、心が体を動かしているわけです。試合でも最後にきつくなってきて、その段階で体を動かすのはここで踏ん張ろうという心だと思うんですよ」

トレーナーと一緒に体幹や筋力トレーニングを行う堀優花。
渡邊菜々美も鏡を見ながら体幹のバランスを確認。

菅平のような高地でトレーニングを行う目的は、もちろんフィジカルな意味も多分に含んでいる。酸素の薄い状態で心肺機能を高めること。高地トレーニングで身体能力をあげる上で、安養寺監督が重視しているのは血液状態だという。

「長距離選手は血で走るといいますか、血液の状態が非常に重要です。酸素が薄い状態で走ることによって、酸素を運搬するヘモグロビンを増やそうとするホルモンが亢進されるので、その環境で練習をすれば長距離選手に有利な血液が生まれます。それと、基礎代謝も上がるので、体を絞りやすくなる。どういう体が長距離選手にとって有利かというと、車を例に挙げると軽自動車の体をつくって、3000ccのエンジンを積んで、ハイオクの血液で走るっていうのが一番速いわけです。高地馴化が進み、心肺機能を追い込んで強化することにより、そういう体をつくりやすいと考えています」

壊した体の組織は食事と睡眠で修復

食事の雰囲気からもチームのいい関係性が伝わってくる。

そしてもう一つ重要なのが、食事だ。「食べて勝つ!」を活動方針に掲げ、実際にきちんと適切な量のカロリーを摂取して消費する、というサイクルを徹底。強い体をつくり、結果を出した。合宿では朝のランニングを終えると、みんなが食堂に集まって美味しく食事をいただく。

「トレーニングをする選手にとっての1日の楽しみって、結局のところ食事ですよ。疲れて宿に帰ってきて、“わー、美味しそう!”って気分にさせられるか。見て美味しくて、食べてさらに美味しくて、結果として体の回復につながる食事がとても大事ですね」

菅平ではホテルが食材の種類や栄養バランスを考えて用意した食事を食べ、必要に応じて「明日はバナナを用意してください」などのリクエストを出す。アメリカで高地合宿をする際には、アルバカーキの合宿所で安養寺監督自らが料理の腕をふるうことも多い。

「選手を強くするためには、食事を時々私が用意して選手の胃袋をつかむことが大切なんです」と安養寺監督は笑う。「一般的に体を動かすこと、走ることをトレーニングと言いますけど、結局何をやっているかというと、運動することで体の組織を壊して、次に壊したものを修復することの繰り返しです。食事によって栄養を入れて、睡眠によって回復・修復を行う。そのすべてを含めて1日の生活すべてがトレーニングだと考えているので、体を動かすアクティブな運動の後に、何をいつ食べるかは重要ですし、そのあとに休むことも欠かせない。そのトライアングルがきちんとできてこそ、強い選手になれると考えています」

安養寺監督は選手時代、35歳まで現役を続け、34歳と35歳で出した3000m障害の年齢別日本記録をいまだに保持している。次回のインタビューでは、監督として現在のようなマネジメント方法にたどり着いた原点としての選手経験について話を聞く。

2019年のクイーンズ駅伝も11月下旬の日曜日に宮城県で開催される。

安養寺俊隆(あんようじとしたか)
パナソニック女子陸上競技部監督
1965年、鳥取県生まれ。京都産業大学卒、順天堂大大学院(博士課程前期課程)修了。高校時代に陸上を開始するも、大学卒業とともに競技の道は引退。1988年に資生堂に入社し、25歳で同社の実業団選手として復帰。3000m障害を中心に活躍し、35歳まで日本選手権に出場する(日本選手権5位、国体4位、つくばマラソン優勝・大会記録保持者)。資生堂ランニングクラブ監督を経て、2016年よりパナソニック女子陸上部「パナソニック エンジェルス」監督を務める。