菅平高原観光協会

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INTERVIEW

中野ジェームズ修一
Mind Control Myself vol. 5
心と頭脳が身体を動かす

November.28.2019

日本のパーソナルトレーナーのパイオニア、中野ジェームズ修一が語る「こころ」のお話。2000年代初頭、中野氏はアメリカから帰国したものの、日本にはまだパーソナルトレーナーという仕事がなかった。中野氏は、スポーツクラブでのトレーナー、インストラクターとして働きながら、目指す仕事を自らが開拓していった。

取材・文/寺野典子

パーソナルトレーニングとしての第1歩 in JAPAN

アメリカでパーソナルトレーナーの勉強をした僕は、帰国後、スポーツクラブで仕事を始めた。アルバイトのインストラクターだ。最初に驚いたのは、バランスボールがなかったこと。体幹強化をはじめ、さまざまなトレーニングで使用されるバランスボール。今では家庭で使用されることも珍しくないものだが、2000年代初めの日本のジムにはそれがなかった。「是非置いてください」と提案しても、「あんなに危険なものは置けない」と一蹴されるだけだった。

「特別にお金をもらって、パーソナルトレーナーとして、クライアントと1対1でトレーニングを行いたい」と言ったときも、理解は得られなかった。

「すでに頂いている定額の料金で、クライアントが満足するサービスをするのがスポーツジム。パーソナルトレーナーとして仕事をしたいのであれば、今の給料の範囲内で無償で行ってください」と言われるだけだった。

パーソナルトレーニングは、すべてのクライアントが受講できるわけではないので、定額の料金以外でのサービスであって当然だ。現在では多くのジムで、オプション料金で個人トレーニングを行っているし、トレーナーにもそのぶんインセンティブが支払われるケースがある。しかし、当時の日本には、パーソナルトレーニングという概念がなかった。

スポーツジムで、個々にトレーニングを行っているクライアントに簡単なアドバイスをしたり、トレーニングのお手伝いや施設や器具の管理、グループの指導という仕事をしながらも、僕のなかでは「こうじゃないんだよな」という想いは消えなかった。

そんなとき、外国から日本に駐在している方と知り合う機会があり、その奥さんのパーソナルトレーナーになることになった。彼女の通うジムは外部トレーナーの受け入れが可能だったことも大きい。そして、その輪が徐々に広がっていき、日本での僕のパーソナルトレーナーとしての仕事は、外国人クライアントからスタートした。

アメリカでは、痩せたいとか、身体を変えたいといった、個々の問題を解決するために身体を動かすとき、「ワークアウト」という言葉を使う。その問題は人それぞれなのだから、解決策も多種多様。だからこそ、パーソナルトレーニングの必要性は高まる。外国人の方はそれを理解しているという結果だった。

知識をシェアする特別授業の成果

日本でパーソナルトレーナーとして、小さな一歩を踏み出した僕だが、最初からそれだけで生きていけるほどの収入はなく、幾つかのスポーツクラブでフリーランスとして、グループレッスンを受け持つようになった。それを続けながら、今度は有料の特別グループレッスンの開催にも挑戦する。しかし、たとえ500円だとしても、有料のレッスンには人が集まらなかった。

通常のグループレッスンでは、スポーツクラブが決めたマニュアルに沿って、メニューを消化しなければならない。そんなレッスンのクライアントをいかに僕の特別レッスンへ導けるか。そう考えたときに行ったのが、レッスン前の講義だった。本来なら挨拶程度に話すだけで、ワークアウトのメニューを実施するところ、僕は毎回5分、10分と話を始めた。ダイエットとは何か、腰痛のメカニズム、その改善に必要な筋肉……毎月僕なりにテーマを決めて話すことで、トレーナーとしての僕自身を理解してもらえるだろうと考えた。そうして、特別レッスンへの興味を抱いてもらいたいと。「話を聞きに来たわけじゃない。早く運動をしてください」といった苦情が殺到することも想定内だったが、折れるつもりはなかった。ワークアウトの意味や重要性を理解してもらうことで、その効果も上がる。闇雲に身体を動かすだけではもったいない。自身の特別レッスンのPR目的で始めた講義だったけれど、徐々に言葉で伝えることの大切さにも気づいた。

現在、講義や取材などで、話をする機会も多いが、このときの経験が今に繋がっている。

そして、最初は苦情の嵐だった、僕の講義を聞きたいという人たちが増えていった。通常のレッスンでは部屋に入り切らないほどのクライアントが集まった。当然特別レッスンへの参加者も増えていく。自分が信念をもって、取り組んだことの成果が形になって表れたことが嬉しかった。

出版社に勤めているクライアントの方の紹介で、雑誌で取り上げられたことがきっかけに、僕の仕事の幅も広がり、現在に至っている。

大学時代、インターンとして務めたスイミングクラブで、トップスイマーから、高齢者や子どもにまで、泳ぎを教える「魔法の言葉」を持ったチーフと出会った。そのとき、身体の使い方という感覚的なものを言語化することの難しさと僕にはその力がないという無力さを味わった。

そこからアメリカへ渡り、パーソナルトレーナーという仕事に就き、日本でその職業を確立しようとしたとき、自分の知識をクライアントと共有するための講義が役に立った。言葉で伝えるというのは、心や頭脳に働きかけるとことでもある。直接、身体を動かすのは、筋肉なのかもしれないが、それを動かすのは脳であり、そして心だ。だからこそ、言葉をおろそかにはできない。

中野ジェームズ修一
(なかの・じぇーむず・しゅういち)

米国スポーツ医学会認定運動生理学士
渡米をきっかけにパーソナルトレーナーの存在を知り、勉強を始める。帰国後、日本ではほとんど認知されていかなったパーソナルトレーナーとして、活動の場を広げたパイオニア。フィジカルトレーニングの現場で、心理学や精神分析学をも活かす仕事は、多くのアスリートから絶大な信頼を集めている。主な著書は『下半身に筋肉をつけると「太らない」「疲れない」』(大和書房)、『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ』(徳間書店)など。累計売上は100万部を突破。東京神楽坂にある会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」最高技術責任者。

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