菅平高原観光協会

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INTERVIEW

勝つためのマネジメント vol. 2
パナソニック女子陸上競技部監督 安養寺俊隆(後編)

September.20.2019

選手たちの成長を感じる瞬間

2019年11月末に宮城県で開催される全日本実業団女子駅伝(クイーンズ駅伝)に出場し、同大会3連覇を目指すパナソニック女子陸上部の安養寺俊隆監督インタビュー最終回。健康でまだ若いチームのメンバーたちを指導する際、長距離ランナーとしてのピークをどのぐらいの年齢に設定しているのか。勝てるチームづくりの原則とは。可能性に満ちた選手たちが発信するスポーツの魅力についても話を聞いた。

写真・文/中島良平

午後の合同でのメイントレーニングとして、この日はタイヤ引きを行なった。監督はストップウォッチでタイムを計り、スマートフォンで動画を撮りながら指導を続ける。

選手間のライバル心がチームの力をボトムアップ

インタビュー第1回で、安養寺監督は毎月の合計走行距離の目安として600kmという数字を挙げた。パナソニックの選手たちには自主性を求めているので、毎月1000km以上をケガすることなく走る選手も出てきて、チームの底力が上がったのだという話もあった。

「高地トレーニングを行うと心肺機能や血液の酸素運搬機能が向上して、身体的な基礎持久力と基礎体力が自然と上がってきます。そうした身体的な効果に加えて、高地は酸素が薄く低地よりも早くきつくなるので、そこでどれだけ我慢できるかという精神的な持久力も鍛えられます。将来的にマラソンを走るんだったら、どれだけ長く走れるかということもとても大切ですし、長く走れる持久力ある気持ちも必要です。なかなかそれができない選手が多いですけど、うちの選手には精神的にも身体的にも持久力がついてきているので、将来マラソンを走るポテンシャルはあると思っています」

チームには現在、「3人のエースがいる」と監督は語る。しかし、必ずしも体力的にも性格的にも同じタイプというわけではないので、早い段階から10000mで大会に出場する長距離向きの選手もいれば、スピードがあるので1500mでその部分を生かして、余裕を持って徐々に距離を伸ばしていくのが向いているタイプもいる。最近は3人がそれぞれに力をつけ、みんなが10000mを中心に大会を目指すようになった。チーム内にライバル心が生まれたことでさらにボトムアップが行われ、秋のクイーンズ駅伝に向けていい環境が生まれているという。

タイヤ引きのスタートを前に脈拍を確認する森田香織。
意外なきつさに思わず笑ってしまう渡邊奈々美。 

「クイーンズ駅伝で3連覇を狙うには、チーム内の競争心をさらに高めることが必要だと選手たちにも話しています。今チームには13人いますが、まずエントリーを10人に絞り、そこから駅伝に出られるのは6人です。本当に強く出たい気持ちを持ってトレーニングをしないと、メンバーに選ぶことはできません。自主的に日々の走行距離を伸ばすことはもちろん、食事やメンテナンスなど、日々のさまざまな側面で行動を的確にする判断力も高めないといけないと思っています」

元号が令和に変わって初代クイーンを取ろうという意識はチーム全員が共有している。その上で安養寺監督は選手たちに対して、個人種目でどれか一つでも自己ベストを更新して、自信を持って駅伝に向かえるようにしようと伝えている。

営業職で学んだリーダーシップをチームでも適用

指の軽い怪我でこの日はタイヤ引きを辞退し、補強トレーニングを行う堀優花も合間に笑顔を見せる。

「練習のタイム設定で、例えば1000mを3分10秒で5本走るタイム設定をする日があったとしましょう。その時は、私の本心では3分10秒だけど、“3分15秒以内で5本を目指そう”とあえていうんです。ちょっと設定が低いと選手たちも感じるかもしれないけど、クリアできなくて自信をなくすことよりも、クリアして自信を持ち、伸ばす気持ちを出していくことの方がいいと考えているからです。もし内容的に9割悪い走りだったとしても、1割のいい部分を見つけて一緒に振り返る。ヘコませてしまうと、何を言っても耳に入らなくなってしまいますから」

そうしたコミュニケーションを続けてきたことで、選手たちの成長を感じることができている。日々の選手たちの自己分析を記した日誌を確認すると、的確に自分のよくなかった点を振り返り、課題と対処法を見つけようとしていることがよくわかるのだという。リーダーとしてチームを率いる安養寺監督は、前回のインタビューで出てきた資生堂で営業職についていた頃の話に再び触れる。

「営業時代のサーバントリーダーシップの話につながりますが、逆ピラミッドが私のやり方、チームの形として理想だと思っています。一番下に監督である自分がいて、その上にチームスタッフであるコーチやマネージャー兼管理栄養士、外部スタッフであるフィジカルトレーナーやドクター、スポーツ婦人科の先生など、それぞれの専門家がいる。そして一番上にいるのが選手たち。私たちの役割はすべて選手たちが結果を出すためですから。選手たちが毎日やる気を持って取り組める環境と雰囲気をつくるのが、監督である私の一番大事な仕事だと思っています」

チームに帯同するフィジカルトレーナーの和光努さんも一員としてタイヤ引きに参加。

選手たちと日々のコミュニケーションを心がけ、細かな変化を気にかける。モチベーションが上がっていることを感じたらその部分をさらに伸ばすように声をかける。逆に気持ちが落ちていることに気づいたら、その原因を一緒に考えてサポートする。現時点の目標タイムという短期的な視点とともに、選手としてのキャリアという長期的な視点も選手たちと共有する。そうしたバランスにも監督として気を配っているのだ。

パナソニックに醸成させるスポーツ文化

「2年前ぐらいまでは、東京オリンピックでマラソンに出たいという選手もいました。でも、選手が発する東京オリンピックでマラソンに出たいという言葉はなんとなく漠然とした目標で、実際に2020年にマラソンで出るためには、どういう過程を踏んでいかなければならないか逆算する必要がありました。今の時点で10000mをどのぐらいのタイムで走れているかなど具体的にシミュレーションをして、これから2年で東京オリンピックにマラソンで出るためにやるべきことを考えるわけです。そこだけを目標にして急ぎで間に合わせてMGCに出場することは、もしかしたらできたかもしれませんが、私はまだ時期尚早と考えました。

まだ20歳前後の選手が、20代前半でマラソン選手としてのオリンピック出場というピークを持ってくるのは危険です。今は日本全体で東京オリンピックに向けて盛り上がっていますが、若い彼女たちがそこだけを目指してしまうと、オリンピックに出られても出られなくても燃え尽き症候群に陥ってしまう可能性が高いと思います。年齢的に考えても、次のパリオリンピックをピークに考えるのが、彼女たちのキャリアにとってベストだと考えています。東京オリンピックですべてを終わらせてはいけないと思っています」

競い合うことでチーム力を上げる意識はトレーニングのプログラムにも反映される。

選手たちにそうした説明をしたところスムーズに理解し、東京オリンピックでマラソンを目指したいという選手はいなくなった。目指すはトラック種目で出場。「どの種目でどこまで自己ベストを伸ばすことができるか、そしてそれが何歳のときになるか」という、キャリアを見通し、決して競技を嫌いになることなく能力を伸ばすべきだという考えが背景にあるからだ。初マラソンでいきなり記録を出してしまうこともあるが、スピードを伸ばしたり、持久力を高めたり、という段階を踏まずに優勝していきなりもてはやされてしまうと、自己分析をできずにそこがピークとなってしまうことも多い。身体面・心理面あわせての成長を監督は重視している。

「パナソニックの選手が駅伝で走っているのを見て、“元気が湧いてくる”とか“見てて気持ちがいい”という感想を結構いただけることがあります。選手たちが自己判断でペースを考えて、私でも“おー、行っちゃったよー”と驚かせてくれる結果を出すこともありますから、それは見てて嬉しいですよね。成長を感じる瞬間です」

社内からも社外からも親近感を持って応援してもらえるチームづくり。そのために結果を出す。安養寺監督は女子陸上部の指導を通して、パナソニックに一つのスポーツ文化を紡いでいく。

左から安養寺俊隆監督、ランナーの森田香織、渡邊奈々美、堀優花、コーチの大貫陽嵩、フィジカルトレーナーの和光努。

安養寺俊隆(あんようじとしたか)
パナソニック女子陸上競技部監督
1965年、鳥取県生まれ。京都産業大学卒、順天堂大大学院(博士課程前期課程)修了。高校時代に陸上を開始するも、大学卒業とともに競技の道は引退。1988年に資生堂に入社し、25歳で同社の実業団選手として復帰。3000m障害を中心に活躍し、35歳まで日本選手権に出場する(日本選手権5位、国体4位、つくばマラソン優勝・大会記録保持者)。資生堂ランニングクラブ監督を経て、2016年よりパナソニック女子陸上部「パナソニック エンジェルス」監督を務める。